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22歳 4月 vol.28

失望
《それでは朝に…》

玄関先で、奈美様が警察の方をお見送りする声がしました。

ドアが閉まる音がして、ヒールの音が監禁室に向かって近づいてきます。
恐ろしい会話の後の静けさが、余計にヒールの音を響かせました。
監禁室にお入りになると、無言でボクの頬を片手でつかみ…
口を開かせると枷にされていたパンティーを取り出してくださいました。


『私が見えて?』
奈美様は視力の回復具合をお尋ねでした。


『は、はい!ハッキリではありませんが、少しだけ目が慣れてまいりました。』


『そう…驚きましたわ。暗闇にいたおまえに突然フラッシュを焚くなんて…。
おまえの目が潰れるんじゃないかと思ってよ!』


『は、はい!ご心配には及びません。
お気遣いくださってありがとうございます。』


『心配するわ。
せっかく《正当防衛》のお墨付きをいただいたんですもの。
おまえの態度次第で、おまえがおまえ自身の目で…
自分のペニス切断ショーが見られなくなったら気の毒ですもの。ふっふ!』


そうおっしゃると…。
手に持っていたものを床に置かれました。
《キーン》という金属音がした方に目を向けると、鈍く光る三角定規のような金属が見えました。


《包丁…》


『ふっふ!ペニス切断と聞いても他人事ですのね?
たいしたバイキンですこと…
まあいいわ!またしばらくはこの中で妄想してなさい!
警察の方があまりにも早く来るから、奴隷達に奉仕も満足にさせられなかったわ!
今度こそたっぷり…たっぷりさせてあげなくてはね。
ルイのペニスを私の右のヒール置き、コトのペニスは左のヒール置き。
一番可愛いミイには聖域を舐めて貰おうかしら。ふっふ!
ここの扉を開けながら、愚かなおまえを見ながら…
奴隷たちにオナニーショーでもさせようかしら?
それとも…
おまえの姿を見せながら私にご奉仕させようかしら?
ふっふ!楽しいわ!楽しいでしょ?ふっふ!あはは!』



『奴隷に奉仕させている奈美様は…み、見たくないです…。』



思わず口をついて出た言葉です。
無意識に、あの奴隷達への嫉妬を顕にしていました。



『何を勘違いしているのです?
誰がおまえに私達の愛の営みを見せると言いましたか?
私は、奴隷達におまえを見せると言ったのです。』


『…。』


『私、ご奉仕は全裸でさせてますの。
おまえに奴隷達を見せるたら…
私のありのままの姿をバイキンに曝すことになりますわ。
愛する奴隷達にも目隠しをさせて…
特別な時以外は私の全裸を見せた事など無くてよ!
自惚れるのもいい加減になさい!
それに…
おまえに見られながら奴隷達に奉仕させても…
気持ち良くなどありませんわ!』


『は…はい…』


『きょうは特別な日ですわ!
ペニス切断記念日!
一体、何本目のペニスかしら?
私のペニスコレクション!
おまえのペニスもホルマリン漬けにして飾ってあげてよ!ふっふ!
きょうは奴隷達には目隠しさせませんの。
見るなと命じても、あのコ達は私の体を舐めるように見るに違いないわ!ふっふ!』


本当なのか?嘘なのか?
奈美様のご自宅には本当にペニスのコレクションがあるのかどうか?
それはこの時のボクには知る由もありません。
奈美様が本当にコレクションされていても…
何のショックもりませんでした。

もし、コレクションとして必要としてくださる御主人様がおいでなら…
いつでもペニスを捧げる覚悟は、マゾとして当然と思ってましたから。
また、今のボクのように見習いとして失敗を重ね使い物にならず…
女王の威信を傷をつける粗相をしたのであれば…
お詫びとしてペニスを切り取ってお詫びするのが当然の義務です。
(指詰めみたいですけど…w)

奈美様のご希望で、潔くペニスを提供できる奴隷達であるならば…
マゾとして尊敬をもし、そんな彼らを羨望の眼差しで見た事でしょう。
また、責任をとったゴミ以下の奴隷達も…
女王のコレクションに自分のペニスを加えていただければ…
マゾとして浮かばれることでしょう。
潔く立派な最期を遂げたのだと思えたかもしれません。


コレクションのお言葉にショックなど皆無でしたが…
その前の奈美様のお言葉が、ボクにはショックでした。
奈美様や、奈美様の愛される奴隷達に怒りにも似た感情が芽生えたのです。

奈美様はご自身のご奉仕のさせ方までおっしゃいました。
両側にヒール置きを従えて、真ん中に跪く奴隷に聖域を奉仕させる…。
思いも寄らない御奉仕発言に動揺するボクがいました。
隣の部屋にいる奴隷達が、先程記した奴隷達のように…
尊敬に値する奴隷達には思えなかったのです。

もし隣にいる奴隷達が…
盗み聞きをした時のままの姿であるならば…
奈美様に相応しい奴隷とは…
お世辞抜きでも思えなかったのです。
奈美様のお言葉通りならば…
ご奉仕している最中に…
全裸の女王を舐めるように見るなんて…失礼だと思いました。
強烈なショックと怒りを覚えたのです。


この時のボクは童貞でしたし…
女性の体の仕組みすらわかっていませんでしたので…
SMに興味の無い方には…
《ボクの勝手な思い込み》に過ぎないと映るかもしれません。
ただ…何年か後、それがマゾとしての正当な礼儀と教えていただきました。
御奉仕の時は常にお顔を拝見し、女王の御機嫌を伺うのが奴隷の常識。
笑顔で見下ろしてくだされば至福の喜び。
無表情でおられる時は不安でいっぱいなのです。
奴隷にとっての御奉仕は、重大な任務であり…
御主人様と奴隷を結ぶ絆なのです。
奴隷が御奉仕の最中に、自分の欲望も満たされようとするのは…
罪なのです。



もうひとつ、彼らを奴隷として認めたくない最大の理由もありました。
それは漠然とした『マゾとしての直感』でした。
のちに、奈美様とご一緒したパーティー会場で…。
紳士淑女のみなさんを、誰がマゾで、誰がサディスチンか…
一目で見抜く事が、ボクにはできました。
どんなに立派なスーツをお召しになられても…
どんなにみすぼらしい格好をされていても…
SやMを見分けるのは簡単でした。
その能力は…
侍従関係を結んだお相手との御調教が進めば進む程…
誰もが同じように見分けられる能力は身につくものですが…。
ボクにはこの時既に、この直感が備わっている気がしました。
SやM(特にM)の相手を見抜く直感は侮れません。


ボクの直感では…
隣の奴隷達が例えMであっても…
奈美様に可愛がられるようなMではないと見抜いてました。


それはおのずと、奈美様を否定する事と同意でした。
奈美様は、女王である以上、全てにおいて完璧を求める方であり…
奴隷に完璧を求める以上に、ご自身の完璧さを追求される御方です。
いえ!女王だからと限った訳ではなく、人間としても完璧を追求される方です。
はじめてお会いした時、ボクは奈美様の『完璧さ』の虜でした。
お美しさから、誰もが奈美様に憧れを抱く方もいらっしゃるでしょうが…
奈美様を知れば知るほどに奥深く、また偉大な方です。
出会いはサディスチンとマゾ…
その主従関係を基本と置きながら…
私生活でも奈美様の生き方は道標であり、ボクは従であり続けました。
それが2人にとっては極普通の関係でした。
この方のお側にいられるだけで幸せだったのです。


その完璧を求めるハズの奈美様が…
あの程度の奴隷達に全裸を曝すなんて絶対にあってはならない事です。
ボクは悲しくなりました。
奈美様とお別れしなければならない事実より…
奈美様の愚行が悲しかったのです。
サークルの仕組んだお芝居と知らずに…
最初で最後に…


奈美様に失望しました。
怒りとも悲しみともとれない涙を流していました。

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