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揺れる想い
『エレベーターに私が乗り込んでいた時は、スブ濡れの子鼠のようにブルブル震えてたおまえが…
随分と勇ましい口を聞くのね?
もっとも、あのままのおまえでしたら追い返していましたけどね。』
不思議と今のボクは震えていません。
奴隷達への嫉妬心が、身体の震えを押さえてくれたみたいです。
『はい。もう震えません!大丈夫です!』
『ふっふ。もう震えないの?残念だわ!
でも、すぐに震えるようになりますわ。現実と向かい合えば…ふっふ。
最初から震えているゴミを相手にする気はありませんの。
じっくりと震えさせてあげるわ。
恐怖の底の底まで見せて差し上げてよ。』
『はい!奈美様!面接をよろしくお願いします!』
頭を床につけてお願いしました。
奈美様は乱暴に首輪についた鎖のリードを引かれ…
《おいで》とおっしゃり、御調教部屋へ招いてくださいました。
玄関で伏して、一礼をしてからフローリングの床の上にあがりました。
床の上はビニールシートが敷かれてあり、エレベーターホールで汚れた身体であがっても大丈夫のようです。
玄関を見渡すと…奈美様のプライベート用に履かれるヒールが1足。
いつもボクが御調教を授かる時に使わせていただいた脱衣籠には衣類は入っていませんでした。
いつもの香りとは少し違った…コロンの香りがほのかにしていましが、中には誰もいる気配を感じませんでした。
恐る恐る辺りの様子を見回すボクに気付いた奈美様は…。
『ふっふ。奴隷達は隣のお部屋にお行儀良く待たせていてよ。
物音を立てるなと命じてありますの。』
《そうなんだ…靴や衣類も隣にあるのか…だから部屋の中に》
『おまえは分かりやすいわね。お部屋に入るなり玄関を見て、脱衣籠を見て。
卑しいヤツ!』
『す、すいません。つい…奴隷の皆さんが気になってしまって…』
『時間はタップリありますわ。後でじっくりと会わせてあげてよ。』
『は、はい…』
『ひとつ、教えてあげるわね。
私の奴隷達はね。おまえのようなゴミと違って、礼儀を弁えてますの。
このお部屋は女王のお部屋です。
女王の持ち物以外の私物は持ち込みいたしませんの。
おわかり?』
『はい。』
『クラブのお客でも、一切の私物は持ち込ませません。
それぞれが801号室のお支度場で準備して、それから神聖な御調教室に呼ばれます。
おまえのように御調教室に俗世の物を持ち込むなど言語道断ですわ。』
《そうだったのか…》
『隣にいる奴隷達はね。見習い2回目で気付いてくれたけど…
おまえは最後まで気付かなかったようね。』
『申し訳ありません!(最後…?)』
『気にしないで。所詮はゴミなんですもの。諦めもつきますわ。』
『………。』
『私の奴隷達は、靴や衣類はもはや必要ありませんの。
お客ではないのですから、お支度場を使う事もないの。』
『はい…。』
『私が呼べば…裸でこちらへ来ますのよ。』
『は、裸で…?』
『当然でしょ?何かおかしな事でもあって?』
『あっ…いえ、』
『可愛いでしょ?自分達でそう決めてしまったの。
《女王のお召しは奴隷の栄誉》だと言ってね。
《お電話をいただいた時からは女王に失礼があってはいけない》とね。
遠いコはおまえの住む場所より遠い所から裸で来るのよ。』
《す、凄すぎる…専属になったら…ボクにもできたのだろうか?》
『そんな奴隷達の努力に報いてあげる為に、私は私の持てる全ての愛情を注いであげるの。』
『はい…奈美様は勿論ですが、奴隷の皆さんもご立派です。』
『ホントはね。大事な私達の愛の時間を、ゴミの面接にお願いするのは気が引けましたわ。』
『申し訳ありません!』
『おまえにも理解できて?』
『はい…大切なお時間を割いていただいて感謝しています。』
『お隣の奴隷達にご挨拶なさい!』
『はい!』
おそらくは隣におられるであろう奴隷の皆さんに…。
『はじめまして!奴隷候補…いえ…元奴隷候補の○○です。
皆さんの奴隷志願として面接に参りました。
本日は大事なお時間を、割いていただいて申し訳ありません。
お気に召していだだけるかわかりませんが、よろしくお願いします。』
ご挨拶申し上げました。
切々と、ご自身と奴隷達の愛の時間を語る奈美様。
きょうのこの日が、どれだけ大切な日なのかをお聞きし…。
ボクの中の弱い心が動きます。
あんなに嫉妬の炎を燃やしていたにもかかわらず…
《ボクは…なんてひどいヤツだろう…。
ボクは、奴隷の皆さんの足元にも及ばない…》
などと、単純に思ってしまいました。
《ボクは…なんてひどいお願いをしているのだろう。
お隣の奴隷達の皆さんは、奈美様の為を思い、奈美様の為に生きている。
奈美様のご迷惑にならないように、お召しの時は裸で参じ…。
ボクの面接の為に、愛の時間を潰してまで奈美様に尽くされ…。
己の欲望の全てをも奈美様に捧げたお心がけ…。
それを…たった2回の御調教をいただいただけで会得できるなんて…。
賢くて献身的な奴隷達。女王に対する献身的な愛。》
ボクなど完敗です。
奴隷候補にも立候補できる器などではありません。
まさにゴミ。ゴミとして奴隷達の皆さんに飼われるだけでも十分な身分かもしれません。
そのゴミが…こともあろうに嫉妬など…
その嫉妬心の為に奴隷の皆さんのご奉仕を取り上げ…
奈美様の喜びまで取り上げてしまったのです。
『ご挨拶はよくできてよ。ただし、今のご挨拶がおまえの面接に良い影響を与える事はないわね。
ふっふ。おまえは奴隷達に対して最もしてはいけない行為をしたのですからね。』
『はい。理解してます。奴隷の皆さんの大切なお時間を取り上げてしまいました。』
『ゴミの頭でも理解できるのね?』
『はい。』
『よろしくてよ。』
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- 1983-04-01
- 試練Ⅳ
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